★カリギュラ(カリグラ)は、父ゲルマニクスが赴任していたゲルマニア(ドイツ)で軍団のマスコット的な存在で、とても可愛がられていた
いよいよ、3代皇帝カリギュラについての記事です。ここで、少し時をさかのぼって、彼の生い立ちについて話したいと思います。カリギュラとして有名な彼ですが、本名はガイウス・カエサルです。ではなぜカリギュラと呼ばれるようになったのか。それは彼の幼児の時代についた愛称からなのです。 カリギュラの両親は、前回の記事でも述べていたように、父がゲルマニクス。母がアグリッピナです。父ゲルマニクスは、アウグストゥスの妻リヴィアの連れ子、ドルーススの息子なのですが、実は母方も、偉大なる初代皇帝アウグストゥスとつながっているのです。ゲルマニクスの母、つまりドルーススの妻はアントニアというのですが、実はアントニアの母は、アウグストスの姉であり、父はクレオパトラに夢中になる前のアントウニウスなのです。 カリギュラの父ゲルマニクスは、妻がアウグストゥスの孫娘アグリッピナで、母はアウグストゥスの姪。そしてゲルマニクスの息子であるカリギュラは、まさに父方も母方もアウグストゥスと親戚関係にある、偉大なる皇帝の血をもっとも色濃く受け継ぐ存在だったのです。 これでアウグストゥスが、自分とは一切血のつながりのない連れ子、ティベリウスより、ゲルマニクスを後継者に・・・と考えたのが理解できるかと思います。 話は少し変わって、父ゲルマニクスについて少し述べたいと思います。明朗闊達であったゲルマニクスは、ローマ市民から非常に人気のある人物でした。まずは、さわやかな美男であったそうです。そして、先に述べた、比類なき高貴の血筋であります。父方も母方もアウグストゥスに血がつながっています。なおかつ、妻、アグリッピナとは非常に夫婦仲がよく、3男3女をもうけ、当時にしては珍しく、妻子を遠征先にまで連れて回るほど、家族を愛する良き父でもありました。 性格も明るく、誰にでも優しく、礼儀正しく対する人で、兵士が反抗すれば絶望して、剣を自らの胸につきたてようとしたり、北海の嵐に翻弄されて沈没する船がたくさん出ると、これまた絶望して、自分の責任だ!と叫んで、海に飛び込もうとする癖もあったりして(笑)、それすらも、人間味あふれる我らがリーダー、と皆に慕われたそうです。確かに、ちょっと可愛いかもo(*^▽^*)o おまけに帝政に固執するわけでもなく、元老院が主体となる共和制にも親近感を見せていたことから、元老院にも評判がよく、とにかくローマ市民からも誰からも慕われ、絶大な人気を誇っていたのが、カリギュラの父、ゲルマニクスなのです。 話をカリギュラの生い立ちに戻しましょう。カリギュラが生まれたのは、初代皇帝アウグストゥスが死ぬ2年前です。ローマから50キロほど離れた、当時は上層階級の豪勢な別荘が立ち並ぶ町であってアンティウムで生を受けました。 幼児のころのカリギュラは、幼いころのアウグストゥスにも似て、非常に愛らしい子で、そのカリギュラを模した像をアウグストゥスは自分の部屋に置き、帰宅のたびにそれにキスしたと言われるぐらいに、可愛らしい男の子だったそうです。 そして、夫の任地には必ずついていく母とともに、彼はローマから遠く離れた、ゲルマニアにあるライン川沿いの軍団基地へと行くことになります。そして、ゲルマニアで戦う兵士たちの間で育ったガイウス・カエサル。彼のために、小さな軍服、小さな軍靴カリグを兵士たちはこしらえ、この小さな男の子を「カリグラ」(小さな軍靴)と呼び、軍団のマスコットとして可愛がっていたそうです。 ちなみに軍靴カリガはこちらを参照 http://www.page.sannet.ne.jp/to-okamo/guwanmi/coin/roma/caligula-aug.html そんな彼がどれだけ兵士の中で人気があったかを伝える逸話があ ります。 偉大なる皇帝アウグストゥスが亡くなり、ティベリウスが後継となったとき、東方地域パンノニア地方と、カリギュラのいるゲルマニアで軍団による反乱、蜂起が起こります。当時の軍団は、戦のときだけに借り出される農民たちとかではなく、軍人を職業とし、給料をもらい、ある程度の定年に達すると退役金をもらって退役するという職業軍人によるものでした。彼らは戦争がない場合は、いわゆる土木工事などの人足となり、給料もそれほど高いわけでもなく、早くに退役したいのに、なかなか退役させてもらえない・・・などの不満を抱えてていたのです。それでも、アウグストゥスの治世にはそれらを押さえ込んでいたのですが、特に期待しているわけでもないティベリウスに帝位がわたったので、これは好機とばかりに、待遇改善の声をあげて、ストライキや暴動、といった手で、自分たちの要求をティベリウスに飲ませようとしたのです。 ゲルマニアの場合は、さらに状況は違いました。ゲルマニアには、かの偉大なるアウグストゥスの直系の孫であり、ローマ市民に絶大な人気をほこるゲルマニクスがいる。彼らは、皇帝はゲルマニクスがなるべきだ!とも声をあげ、反乱の手をあげたのです。彼からすれば、ゲルマニクスが自分たちの後ろ盾で皇帝となれば、最初に支持した自分たち、ゲルマニア軍団の待遇改善に善処してくれるに違いない・・と思ったらしいです。 しかし当のゲルマニクスにはティベリウスを討ち果たして、われこそが皇帝に・・・などという気はさらさらなく、あっさりとそれを否定し、それどころか、新しい皇帝ティベリウスに忠誠を誓うように説得したほどでした。 こうなったら、待遇改善にはストしかない!とばかりに不満の声はあっというまにゲルマニアの軍団内をうめつくし、暴動をおさえるべく低地ゲルマニア軍団の夏季宿営地にゲルマニクスが到着したときには、いつもの礼儀はどこへら、口々に不満を述べ始め、ゲルマニクスが彼らの暴動をおさめるべく発した発言にさえも抗議の声をあげるしまつだったとか。 ゲルマニクスもティベリウスのものからと、文書を偽造してまで、待遇改善を約束する文書をつくり兵士たちにそれを伝えました。内容としては 1、20年兵役を務めたものは、今すぐ除隊して良し 2、16年兵役を務めたものは、予備役にまわり、敵への迎撃戦以外は、すべての任務から解放される 3、アウグゥトスからの遺贈金は、2倍にして支払う というもので、これらをゲルマニクスや、幕僚たちのポケットマネーで支払ってまで、暴動をおさえることとしたのです。 これで夏季宿営地にいる軍団の暴動はおさまりました。さあ次は、マインツにある冬季宿営地の暴動を収めよう・・・とそちらでも同様の特典を認め、事態は収拾される・・・と思われました。 しかし、ケルンにいるゲルマニクスのもとに元老院からの使節団が訪問したのです。それをみた兵士たちは、ゲルマニクスから勝ち取った待遇改善の要求を撤回にしにきた、と思い込み、またもや暴動が再発。こんどは総司令官であるゲルマニクスの寝室にまで押しかけるといった、礼節を無視した暴徒と化したのです。何とか説明をしてその夜は、兵士たちは撤退しましたが、その後のゲルマニクスの説明も、兵士たちを完全には納得させることはできず、不穏な空気が漂っていたのです。 この状況で、妊娠中の妻をはじめ、幼い子供たちをここにおいておくのは危険だと、幕僚たちはゲルマニクスに進言。ゲルマニクスも迷った末に、妻子だけはゲルマニア軍団の基地ではなく、そこよりは安全と思われる属州ガリア(現在のフランスのあたり)へと避難させることを決意します。 そして、まるで敵軍に襲われて逃げでもするような逃避行の準備が始まりました。カリギュラとその母アグリッピナたちのみならず、ほかの司令官たちの家族も避難することとなり、荷車の準備や、避難につきそう女奴隷たちの泣き声に、眠りを破られた兵士たち。彼らが眼にしたのは、荷車にゆられて去ろうとしている、幼子を胸に抱いたアグリッピナと、それにつづく高官たちの妻と、少数の護衛兵。しかも行き先は、ローマ人の居住先ではなく、属州民ガリアのもとであるという。これは、ローマ市民である兵士たちの胸を突き刺したのです。後世の歴史家タキトゥスの書き記したところの「哀れさと恥の想いでいっぱいになった」とか。 そして、母の胸に抱かれて去ろうとしているのは、兵士たちがマスコットのような存在、幼児用に軍服を特別にしたて、軍靴(カリガ)も手作りして履かせてまで可愛がった、「ちびっこカリガ」カリグラが、自分たちのせいで、安全で快適な官舎を追い出されようとしている。しかも、身の安全を、自分たちが下にみている、属州民のガリア人の手にゆだねるという・・・・ 兵士たちは、門を出ようとしていた荷車のところに駆け寄り、アグリッピナに戻ってくれるように懇願。ゲルマニクスの元に駆けつけ、ローマ軍団の恥になるようなことは止めさせてくれ・・・と願いました。そして、これを好機とばかりに、ゲルマニクスは壇上に駆け上り、兵士たちに向かって演説をするのです。 その内容は、ゲルマニクスの人柄をよく反映したすばらしい演説でした。長いので割愛しますが、それにより、兵士たちの心は後悔でいっぱいになり、暴動を起こした自分たちを恥じ、自らの犯した罪のつぐないをすべく、目だって暴力行為を働いたとされた者は、兵士たちの手によって裁かれ(要するに処刑された( ̄▽ ̄;))、ケルンの冬営基地の秩序は回復したのです。 とまあ、カリギュラのおかげで暴動は鎮圧されたのだ、とも言えるほどに、ゲルマニア軍団に愛されていたのがカリギュラなのです。ちなみに、そのときの軍団の中に、のちにカリギュラを暗殺することになる、親衛隊長ケレアスもいたのですが・・・このあたりは、またのちほど・・・
by pukapuyajiri
| 2007-10-14 00:22
| カリギュラ
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