カミュ原作 「カリギュラ」あらすじ 第四幕  ~上~

        ★★★★  第四幕(最終幕)  ~カリギュラの最期~ ★★★★


薄暗い中でケレアとシピオンが話している。ケレアはいよいよ事を起こすときがきた、シピオンにも同志となってくれと頼むが、シピオンはそれを拒否する。

シピオン
「僕には、あの人に逆らうことができないのだ。 (間、それから低くかすれた声で)
仮にぼくがあの人を殺したとしても、僕の心だけはあの人から離れないだろう」

ケレア
「しかし、あの人は君のお父さんを殺したじゃないか!」

シピオン
「そうです、それがすべての始まりだった。でもそれがまた全ての終わりなのだ」

ケレア
「あの人は、君の認める価値は否定する、君の尊敬するものは愚弄するじゃないか」

シピオン
「そのとおりだ、ケレア。だけどそれにもかかわらず、僕の中の何かがあの人に似ている。同じ炎がぼくらの心を燃やしている」

ケレア
「選ばねばならぬときがある。私はな、自分の中であの人に似ていそうに思われるものは自分から押し殺してしまったのだ」

シピオン
「僕には選ぶことは出来ない、その理由は、ぼくが自分自身の苦しみの他に、さらにあの人の苦しみまで苦しんでいるからです。ぼくの不幸は、なんでも分かってしまうということなのだ。」

ケレア
「そんなら君は、あの人を正しいとする立場を選んだのだ」

シピオン(叫んで)
「ああ、冗談じゃないぞ、ケレア、ぼくにとってはもう、もう誰一人として正しい人間なんていない!」

間     二人はじっと見つめあう

ケレア(心を打たれて、シピオンのほうへ歩み寄り)
「いいか、わたしは君をそんな風にしたあの男をますます憎む」

シピオン
「そう、あの人はぼくに教えてくれたのだ、全てを要求することを」

ケレア
「そうではない、シピオン、あの人は君を絶望させたのだ。そして若い魂を絶望させるとは、あの人が今までに犯したいかなる罪にもまさる罪だ。誓って言おう、わたしが怒りにまかせてあの人を殺すには、このとだけで十分だ。」

ケレアは出口のほうへ向かい、エリコンが登場すると、親しいものを集めてちょっとした会合をカリギュラが開くので、出席するように、とケレアに伝える。そして、去ろうとするケレアにシピオンは「わかってくれ、ケレア」と伝え、ケレアはおだやかに「できない」と答える。


舞台袖に武器の音。右手から、二人の衛兵が、老貴族と第一の貴族を連れて現れる。二人の貴族は明らかに恐怖におののいている。拷問なのか、処刑されるのか、と恐れおののく貴族たちとケレアも合流。これから何が起こるのか・・・とみなで話していると、衛兵たちは、席につくように命令する。

突然、シストルという楽器とシンバルの、鋭く急テンポの奇怪な音楽が、舞台奥で鳴り出し、貴族たちは黙りこくってそれを見つめる。

カリギュラが踊り子の短い衣装を着け、頭には花を飾って、舞台奥のカーテンの向こう側に影絵芝居のように現れ、滑稽な踊りの仕草をいくつか見せて、姿を消す。

それが終わるや、衛兵の一人がもったいぶった声で、「芝居はこれにて終わり」と告げ、いつの間にか入ってきていた、セゾニアが、見物の貴族たちに特徴の無い声で話しかけると、貴族たちはとびあがる

セゾニア
「カリギュラからあなた方に伝えるようにと、承って(うけたまわって)参りました。
 これまではいつも国事のためにあなた方を招集してきたが、今日は、あなた方に芸術的感興を共に味わっていただくため、お招きしたとの事です。

(間  それから同じ声で続ける)

それから付け加えて、こう仰せになっています。この芸術的感興をともに味わなかった者は、斬首の刑に処せられるであろうと。

(一同、沈黙する)

しつこいようで恐縮ですが、でも私としては伺わせていただかねばなりません、あなた方がただいまの舞踊を美しいとお思いになったかどうか」

みな、当然のように、美しい芸術であったと賛同し、セゾニアもその感想をカリギュラに報告しますと告げる。

エリコンと話すケレア

エリコン
「俺にはわかる。あんたは非情に強い人だ、ケレア。徳行の士としては贋物(にせもの)だ。しかし強い人だ、本当にな。おれは、おれは、強くない。 だがな、あんたがたにはカイユス様に指一本触らせないぞ、たとえあの方のほうでそれをお望みだとしてもな。」

ケレア
「その話はなんのことか全く分からんね。しかし、お前の忠誠心はお見事だと思う。おれは忠実な召使が好きだからな」

エリコン
「ひどく自信があるじゃないか、ええ?
そうとも、おれは気違いにつかえている。だがあんたのほうは、あんたが仕えているのは何者だね?美徳ってやつか?そいつに関するおれの意見をはっきり言わしてもらおうか。

おれは奴隷に生れ落ちた。そこでおれは美徳のみせかけを、いいかね、初めのうちは鞭(むち)にあわせて踊ってみせたさ。

カイユス様は、あの方だけは俺に向かって長ったらしいお説教はなさらなかった。おれを自由の身にしてくださり、ご自分の宮殿にお召しかかえくださった。こうして、おかげでおれはあんた方、徳のあるお方たちを、まとまに見つめることができるようになったわけさ。

するとどうだ、なんのことはない、あんた方はしけた面(つら)をぶらさげて、けちな臭いを振りまいているじゃないか、ついぞ苦しんだことも、危険を冒したこともないご連中の気の抜けたあの臭いさ。

いかにも衣装のひだは見事に後期だ、しかし心はすりきれて、顔は貪欲、その手はとらえどころもない。

あんたがたが裁くんだって?美徳ってものの、小売りをしているだけのあんた方が?まるで小娘が恋を夢想するように、安全ってものを夢想しているあんた方がかい?

しかもそれにも関わらずだ、一生嘘で固めた人生だったと、それさえも分からぬままに、ただ恐怖にわなないて死なねばならぬあんた方だぜ。

それが、際限も無く苦しんできたあの人を、毎日毎日、幾千もの新しい傷口から血の吹き出している人のことを、おこがましくも裁こうなんて言うつもりかね?

その前に刃を受けるのはこのおれだ、肝に命じて忘れるなよ!奴隷を蔑(さげす)むがいいのだ、ケレア!その奴隷は貴様の美徳なんぞより、はるかに上等なのだ、なぜならな、その奴隷は、今なおこの悲惨なご主人様を愛することができるからだ、その人を貴様らの上品ぶった嘘八百や、裏切り者のその口から守ってさしあげる・・・・」

ケレア
「親愛なるエリコンよ。大した雄弁だな。正直言って、昔のお前のほうが趣味が良かったぞ」

エリコンが退場した後、ケレアと老貴族たちは、いよいよ陰謀を実行に移すときが近づいていることを話し合う。味方は今夜には100人を超えるだろう・・・言いながらもケレアは退場したところに、カリギュラが病気で死にそうだ!というニュースを伝えに数人の騎士や貴族が駆け込んでくる。そして、カリギュラの病床のもとに、数人の貴族があつまる。ケレアと第一の貴族はそこにいない。

カリギュラは胃が悪く、血を吐いたのだ、とみなに伝えるセゾニア。大げさに、金で治るもんなら、大金を払うのに・・・!といった貴族も、そのお金を国庫におさめるよう命じられ、カリギュラの病気が治るなら、私は命を神に捧げよう!と言った貴族は、では死んでもらおう、と衛兵にひったてられる。衛兵に連れられる貴族にむかって、カリギュラは振り向いて急に真顔になり、こう告げる

「人生というものをな、もしお前が本心から愛していたならば、そいつをそんなに軽々しく賭けたりはしなかったはずだ」

そして、ケレアのもとにセゾニアがいき、カリギュラが死んだと伝える。呆然として言葉もない第一の貴族。ケレアは足早に貴族たちの顔を見て回り、それからセゾニアのほうに向き直る。一同、黙りこくったままである。

セゾニア(ゆっくりと)
「何もおっしゃらないわね、ケレア」

ケレア(同じくゆっくりと)
「大変悲しむべき報せですな、セゾニア」

ここで荒々しくカリギュラ登場。 ケレアのところへ行く。彼は告げる

「お見事だケレア、(彼はくるっと一回転して一同を見つめる。不機嫌に)ええい、失敗だ!(セゾニアに)言いつけておいたこと、忘れるなよ」

カリギュラ退場。セゾニアがと老貴族が話し出す。

老貴族(根気良く、望みをかけて)
「あの方、ご病気なんでしょうかね?セゾニア?」

セゾニア(憎々しげ彼を見やって)
「違うわ、でも別嬪さんには分かるまいけど、あの人は毎晩二時間しか眠らない、そしてあとの時間は、休む事もできず、宮殿の廊下をさまよい歩いている。あんたなんぞ知らないこと、あんたなんぞ自分の心に尋ねてみたこともないこと、まさにそういう事柄だわ、あの人が真夜中から太陽が戻ってくるまでの、あの恐ろしい時間のあいだじゅう、考え続けていることは。
 病気?いいえ病気じゃない。でもあんたが名前を作るっていうなら話は別。あの人の魂をおおい尽くしている潰瘍に名前をつけて、薬をこさえてくれるならね。」

ケレア(感動した者のごとく)
「あんたの言うとおりだ、セゾニア。われわれはみんな知っている、カイユス様が・・・・・」

セゾニア(それにかぶせて早口で)
「でも魂をこれっぱかりも持たない連中はみんなそうだけど、あんたたちは魂のありすぎる人に我慢できない。魂がありすぎる!それが厄介なのよ。そうじゃなくて。だから人はそれを病気と呼ぶ。知ったかぶりの連中が正しいってことになって、そいつらは満足する。(別の口調で)あなたは、一度でも人を愛せたことがあるの?ケレア」

ケレア(再びわれに戻って)
「いまさらそれを学ぶには我々は年を取りすぎていますな。それに第一、カリギュラのほうでそんな余裕を与えてくれるかどうか」

セゾニア(元の口調に戻り)
「それもそうだわ。(腰をおろす)  それから、忘れるところでした、カリギュラからあなた方に勧告があります。今日は芸術のために捧げられた日だということをお忘れなく。」


そして、カリギュラが詩人をあつえて、詩を披露する催しを計画しているので、シピオンも含めて、詩人は集まるようにと命じる。
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by pukapuyajiri | 2007-11-06 10:53 | カリギュラ
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